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大阪高等裁判所 昭和25年(う)1202号 判決

被告人

三共東碩

主文

原判決を破棄する

本件を奈良地方裁判所に差し戻す

理由

弁護人白井源喜の控訴趣旨第三点について。

国税犯則取締法第十条によれば収税官吏が犯則者の質問及び応答の顛末を記載する質問顛末書を作成したときは質問を受けた者に之を示し作成者と共に署名捺印することができないときはその旨を附記することを要する。かように顛末書の作成に質問を受けた者の協力を必要としたのはその記載の正確を保障せしむるにあるものと解する。ところで原判決引用の大蔵事務官池田宏作成の質問顛末書(判決に始末書とあるは顛末書の誤記と認める)には池田宏の署名捺印があるのみで質問を受けて応答した被告人の署名捺印がないし、その理由について何等の附記もないこと、その作成の日附も昭和二十四年五月十五日とあつたのを五月十一日と訂正してあり且つ末尾には昭和二十四年五月十日と十と日の間を一字空白にして記載してあること及び同年五月十一日司法警察員作成の第一回供述調書によると被告人は原判決判示第二に当る譲受けの事実を否認しており同年五月十七日司法警察員作成の第二回供述調書に於て右譲受けの事実を自認するに至つたことは全て所論の通りである。かような事情を綜合して考えると果して右顛未書の記載内容(右譲受けの自認)が応答供述と一致するものかどうかを確認するに由なく、刑事訴訟法第三百二十六条の要求する相当性がないものと解する。それゆえに所論質問顛未書はたとえ被告人が証拠とすることに同意したとしても証拠能力はない。原判決は判示事実を認定するに当り第一、第二、第三を一括しその全事実に対する証拠として、各種の供述調書、始未書、質問顛未書等を羅列して掲げ、これらの証拠を不可分的に綜合してその全事実を認定したもので前に述べたように証拠能力のない証拠を他の証拠と不可分的に綜合して認定の用に供しているのであるからその違法は判決に影響を及ぼし原判決は既にこの点で破棄を免れない。

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